#189 技能五輪観戦記
2023-12-04
技能五輪全国大会という競技会があり、建築大工や左官、建具、機械組立て、プラスチック金型、果ては理容や洋菓子製造まで42職種に渡る分野で毎年1000人を超える選手が参加して催されています。今年で61回を迎える大会がこの11月17日から愛知県常滑市にある愛知県国際展示場で行われ、その競技を応援がてら見る機会がありました。というのも、その建築大工の競技に当社の細金光君が群馬県代表として出場することになったため会社の研修を兼ねて応援に駆け付けたのです。
「国内の青年技能者の技能レベルを競うことにより、青年技能者に努力目標を与えるとともに、技能に触れる機会を提供することなどを通じ、広く一般国民に対して技能の重要性や必要性をアピールし、技能尊重機運の醸成を図ることを目的とする」とした能力開発協会の主催で行われる大会は、このあと来年の9月にフランス・リヨンで開催される国際大会への選手選考も兼ねています。
建築大工の出場者は57名で全国から予選を勝ち抜き県連の推薦を受けた優秀な若い大工さんたちが覇を競いあいました。
会場はセントレア中部国際空港に併設された国際展示場で、広い空間を6ブース持つため各競技が同じ会場で同時にできる利点があって近年ここが使われているそうです。建築大工の競技は二日間延12時間の持ち時間を使って、現寸図作成、墨付け、部材加工、組立てまでをすべて終了することが求められています。今年の課題は台形状平面の桁組に勾配のついた棟木を据えそれに隅木と垂木を架けていくというもので、規矩術を駆使してミスのないように進めないと時間内に納めることは難しい代物です。課題は8月末に事前発表されますが、競技では一部寸法指示が異なって出題されるため現場対応が必要となります。出場した細金君も課題発表から約3か月間、会社の仕事を休んで群県連の施設で講師の先生と特訓を重ね、都合5回ほどの試作を作っていましたが、出場前には時間がまだ1時間ほど足らないと少し焦りを感じていたようでした。会社からはバスをチャーターして従業員と協力会の方々と十数人で2日目の朝出発、13時頃の到着を目指しましたが途中事故渋滞につかまり1時間ほどロス。セントレアに着いたのが競技時間の終了30分前という滑り込みになりました。
会場に行くと57選手が一堂にゼッケンや県名を背に時間を気にしながら制作に打ち込んでいる姿とそれを応援する多くの観客を見て、胸にこみあげてくるような感動を覚えました。この競技への参加資格は23才までで、普通に考えれば生涯に一度だけのチャレンジです。高校を卒業してキャリアを積みながら夜間の職業訓練校で学び、その後本人の向上心と共に優等な技術を身に付けて送り出されてきた若人たちです。
会場には残り時間10分!のアナウンスが流され、選手たちの槌音や手を動かす動作がせわしくなっていきます。そして、終了!のブザーと共に会場は大きな拍手で包まれました。取り巻くギャラリーは我々のような会社の同僚だったり、家族の人たちも多くみられます。検査員から少しの注意事項を告げられた後、作品を見る機会を与えられ細金君と対面。時間内に完成することができたのと、その出来栄えに満足の様子だったのでほっとしました。講師の先生からは練習の時に1時間ほどの時間不足になるくらいが丁度よく、本番で時間はきっと合わせられると助言を受けていたようで、その通りになりましたとのこと。アドレナリンが出るんですね。
出来栄えに満足していたように作品は留めの部分や仕口が綺麗に納まっておりその技術の確かさが伺い知れました。
全国の建築大工数は10年前には40万人ほどいたものが2020年に29万人に減少、高齢化も進んで若年層の就業率が減っていることが顕著です。ものづくりの代表である大工に今の若者は魅力を感じてくれないのでしょうか。そんな懸念を抱きつつも、ここに会した57名の若い大工たちのこのこころざしと夢をなんとか現場で発揮し花咲かせてやらねばと、我々先輩たちの社会的責任も改めて感じさせてくれた時間帯となりました。
その夜は本人も交えて名古屋の栄町で労をねぎらって慰労会。
翌日無事群馬へ帰ったら、なんと敢闘賞を受賞したとの朗報が入りました。
群馬県では十数年ぶりの入賞とかで、来年の群県連の新春の集いで表彰式を行ってくれるそうです。
細金君、あっぱれ