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社長のうんちく

#186 「人新世」という時代区分

2023-08-17
(「JCCCA」H.P.の資料から)
 毎年のことながら、盛夏といわれる7月下旬から8月にかけての気温が、かつて子供のころに経験したことのない39度、40度という途方もない温度になって久しいですが、命に関わる危険な温度帯となって、国連の事務総長曰く「地球温暖化は終わった、地球沸騰化の時代が到来した」と警鐘をならす事態にまでなっています。
 地球規模で見ても、ハワイ・マウイ島の大火災や台風・ハリケーンの大型化と頻発、干ばつによる水資源の不足など生命存続の大危機に近づいている恐怖感を覚えるようです。一部に地球は温暖化などしていない、定常状態を大袈裟に煽っているだけだとする陰謀論めいた論説や意見もありますが、もはや温室ガス効果による地球温度上昇はパリ協定を待つまでもなく「定説」としてよいと思います。
 政府関係機関の資料からはこのまま推移すれば100年後には5℃以上上昇するという恐るべき予測が立てられています。
 対策はあるのか?
 かつて半世紀前の経済学者・ボールディングは「指数関数的な成長が、有限な世界において永遠に続くと信じているのは、正気を失っている人か経済学者かどちらかだ」と述べたとされていますが、この言葉通り多くの識者が資本主義が経済成長を優先する限りは気候変動を解決できないとしています。大人たちがそれに気づきながらその対策を先送りにして「正気を失っている」とはっきり指摘したのが、スウェーデンの15才の環境活動家グレタ・トゥーンベリでした。政治家たちが人気取りのために“環境にやさしい恒久的な経済成長のことしか語らない”と厳しく批判したのでした。この数世紀の間、経済を豊かにして商品が溢れて大都市を形成してきた資本主義ではありましたが、所得格差を生み中産階級をなくし1%の最富裕層が富を独占するような仕組みは間違っているのではないか、欠陥のある仕組みなのではないのかと人々はうすうす感じ始めています。「資本主義の死期が近づいているのではないか、これまでアダム・スミスやマルクス、ケインズといった偉大な思想家がその欠陥を是正しようと命がけで闘ってきたから資本主義は8世紀にわたって支持されてきただけではないのか」とも指摘されています。(水野和夫著:資本主義の終焉と歴史の危機)
 CO2を出さない切り札とされている電気自動車もその裏ではリチウムイオン電池のリチウムを採取するのにアンデス山脈の地下水を大量に組み上げて地域の生態系に大きな影響を及ぼしているし、更に電池に必要なコバルトもコンゴで露天掘りをして採掘されて奴隷労働や児童労働が蔓延して劣悪な環境での作業を余儀なくされているといいます。先進国側での環境活動と言われているものもじつはその社会的・自然費用をグローバルサウスと呼ばれる地域に転嫁しているにすぎないのです。
 斎藤幸平氏の近著「人新世の資本論」にはその答えになるヒントがちりばめられ好奇心をそそられます。曰く、「資本主義が引き起こしている問題を、資本主義という根本原因を温存したままで解決することなどできない」と喝破しています。
 そのうえで水や電力、住宅、医療、教育といったものを公共財―社会的共通資本として自分たちで民主的に管理することを挙げています。これをコモンと呼び脱成長コミュズムの基本として据えることを提案しています。
 コミュニズムやマルクスというと一時代前の遺物のように思われるかもしれませんが、斎藤氏によれば晩期のマルクスは若き日に著した「資本論」からもっと進んだ思索に到達していたと語ります。
 経験的に携帯電話が普及しパソコンが当たり前の時代になったとき、それまでのアナログの仕事からは開放されもう少しゆとりのある人間的な仕事環境になると思っていたものが、現実は逆でさらに忙しくなってスピードを要求されるようになったと感じるのは私だけではないと思います。それは「使用価値(サービスの質)」よりも「価値(儲け)」が優先される資本主義だからで、使用価値経済への転換が出来れば労働時間の短縮にもつながると指摘します。
 転換はそう簡単ではないことは想像に難くないですが、これまでの歴史が教えるのは3.5%の人々が非暴力的に立ち上がると社会が大きく変わるという事実を指摘しています。トゥーンベリさんのように小さくとも身近な運動や啓蒙から始め、その意思を表現・実行することで社会は変えられると著し希望を与えてくれます。
 地球の地質学的時代区分で6,600万年前以降は新世という名を冠して呼ばれ、現代はそのなかで完新世という時代区分に含まれていますが、そのあとに続く区分として、化石燃料を燃やした際に出る炭素のすすや核実験により拡散したプルトニウムなど人類が地球環境に痕跡を残し圧倒的な影響を及ぼした時代として「人新世」(ひとしんせい、あるいはじんしんせい)という時代区分を新たに設けると国際機関から発表されました。
 後世何千年後かに人類が存在したとして、我々の生きた時代の「人新世」をどう評価しているのか。経済的享楽に浮かれて地球を蔑ろにし取り返しのつかない状態にした時代といわれているのか、それとも人智を結集して経済の組み替えを達成し地球環境を維持した時代といわれているのでしょうか。
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